Figaro – Madvillain / マッドヴィラン 和訳

Figaro – Madvillain / マッドヴィラン の和訳。フィガロと言えば、モーツァルトの『フィガロの結婚』を思い浮かべるだろうが、この曲では特にゴールドチェーンを指す。高価なファッションばかり気にして、音楽を疎かにしているラッパーを卑下する意味で使われている。

MV

Figaro – Madvillain 和訳

オリジナル🔗Genius

他の奴らは空っぽで能がない、でもこのスマートなナードは
お前が聞いた中で最高の、チェーンをつけないMC
TEC-9を持つ俺から奪ってみろよ
マネしたところで、その首が光るのはシャイノラのおかげだとも知らないんだろ*1
光るものすべてが良いコカインってわけじゃないぞ
考えさせてくれ、彼女を倒れさせるわけにはいかない、イシュマエルに
ジャックのショットを渡して彼女を起こすんだ、筋書きから外れてるけど*2
カロライナのことは忘れて、俺はこう返事した;カチャッ、カチャッ、バンッ!
ヴィレニー、そのチャクラの心で感じろ、チャートトップに君臨して
争いを終わらせてしまう奴だ、賢い買い物しろよな
この辺で警察を撃つ日は、しばらく続きそうだ
でも誰が考えただろう、撃った奴はどこだと考える奴があと二人いたなんて
飛行機に乗り込むところ、捕まえろ、絶対だ、殺せ
俺らに毒を吐かせろ、そいつらとの間にはいろいろあるから
「その韻で殴ろうぜ」他の声で言う方が強そうに聞こえる*3
俺らが作るジョイントのせいで、思わず尻が濡れて足を広げてしまう
おいおい、このステージはパンティーだらけだ
若い娘からおばあちゃんのものまで
金を搔き集める俺を止めてよ、パパ
このフローが彼女の肉を揺らすよ、パタケーキ、パタケーキ*4
冗談だけどさ、奴がアニタ・ベイカーの男なら
彼女を支配できるようにして、一発ヤッて、握手を交わすんだ
昔のことでありがとうと言いながら、彼女を捨ててやるんだ
ポスターにサインしてくれたら、彼女はトースターだけ気にしてりゃいいから
ローラーコースターに乗ってる全員が
トラックをもっと欲しがる (そうなの?)
十分にアツいブラック (お前にとって)
熱すぎるから、お前はブルーのサンダルを履いてんだろ
誰がお前を撃ったって? また落書きできる場所を見つけたって?*5
突っ立ってないで、スキルを自慢してみろよ
惜しいがコカインをもらえるほどじゃない、無能な奴に乾杯、広告は出すな*6
全米中の凡人のフローは酷いもんだ、もう休め
ノード―ズを飲み過ぎないように*7
プライドから野良犬は大口を叩く、口肉を裂きながら
ウォーフが宇宙艦隊で戦うくらいオフサイド*8
言ったろ、高利を狙おうとしたから
年を取るにつれ、魔女の乳より冷たくなったんだ
これが正念場、ミスるなよ
俺の知ってる奴はどこへ行った?
フィガロ、フィガロ*9
オーのビートと俺の韻攻撃
恐ろしいパフォーマンスなんだよ、ミス・メリー・マックみたいに全部ブラック*10
ピアノ伴奏のライブを見るまで待っとけ
ドゥームはソプラノで歌う「ウナ、ドシア—ノ–」*11
ママは言ってた
そいつらを撃って、オールドイングリッシュのグラスを渡しなさいって
面倒な奴になるつもりじゃないが
ラム酒をダブルで飲んだとしても
口直しのチューインガムはいらない
俺はアイスクリームが好き、結婚式は飛ばしてもいいだろ
素敵な夢を見よう、でも彼女は頭しか入れさせてくれない*12

注釈

この曲に限ったことではないが、ドゥームのライムスキームは飛び抜けて優れている。冒頭の2文はこんな感じ。

The rest is empty with no brain, but the clever nerd
The best MC with no chain ya ever heard

下記動画のハイライターで全文のライムを確認できる。


*1 シャイノラとは、1940年代にポピュラーだった靴磨きワックスのメーカー。「君の靴がピカピカじゃないのはシャイノラを使ってないから!」という文句があったため、「don’t know shit from Shinola」が「基本的なことも知らない」の意味で使われる。つまり、首にかけるキラキラしたチェーンが表面的なもので中身が伴っていないと言っている。そして「all that glitters is not gold (光るものがすべて金とは限らない)」ということわざで追い打ちをかける。ここではゴールドではなく「fishscale (魚の鱗のように光る、質の良いコカイン)」だが。

*2 イシュマエルは『創世記』に登場する、女奴隷ハガルの息子。母子は砂漠に放逐され、イシュマエルは喉の渇きで死にかけるが、ハガルが神に祈ると泉が出現する。ただ、ここではジャック・ダニエルを渡しているので、とどめを刺している感がある。

*3 ラキムの「Let The Rhythm Hit ‘Em」のレファレンス。「他の声」はラキムの声を指しているのだろう。

*4 「パタケーキ (pattycake / pat-a-cake)」は子ども用の手遊びの歌。ドゥームの言う「パタケーキ」はセックスのこと。「Pat-a-cake, pat-a-cake, baker’s man… (ケーキを作る、ケーキを作る、ベーカリーのおじさん…)」という元の歌詞を用いて、アニタ・ベイカーの夫 (baker’s man)まで持って行くのは秀逸。ここでドゥームが演じているのは、離婚協議で彼女の楽曲の著作権収入を求めたアニタの元夫である。

*5 ノトーリアス・B.I.G.「Who Shot Ya」のレファレンス。ドゥームがKMD時代にグラフィティのクルーをしていたことも関連している。

*6 「close, but no cigars」というフレーズから。昔として景品にタバコがもらえたそうで、景品獲得には一歩及ばなかったことを意味する。ただ、ここではタバコではなく「krills (コカイン)」である。

*7 「ノード―ズ (No-Doz)」はカフェイン入りの眠気覚まし剤。

*8 ウォーフは『スタートレック』に登場する宇宙艦隊士官。オリジナルではクリンゴンと連邦が戦うため「オフサイド」と形容される。

*9 「フィガロ、フィガロ…」と繰り返されるのは『セビリアの理髪師』で歌われる「Largo al factotum」。また、フィガロ (高価なチェーン)ばかりに気を取られているラッパーのことを揶揄している。続く「オー」のビートとは、マッドリブことオーティス・ジャクソンのこと。

*10 「ミス・メリー・マック (Ms. Mary Mach)」も、子ども用の手遊び歌。「Ms. Mary Mack, all dressed in black (ミス・メリー・マック、着てる服は全身ブラック)」という歌詞から始まる。マッドヴィランは二人ともブラック (黒人)である。

*11 「ウナ、ドシアノ (Una, duociano)」は存在しない言葉だが、イタリア語もどきの「(マイクチェック)ワン、ツー」。

*12 レイクウォンの「Ice Cream」で使われていたためか、アイスクリームは人種関係なくセックスすることを意味する隠語になっている。ドゥームのそれは夢の中の妄想に過ぎないため「頭しか入れられない」のである。