He Thought of Cars – Blur / ブラー 和訳

He Thought of Cars – Blur の和訳。危機的状況にある世界からの脱出を夢見る曲。車や飛行機は逃亡の手段であり、技術の進歩であり、物質的豊かさである。それらを手に入れた姿を想像するも、ここで気づくのは同乗者がいないことなのだ。

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和訳

今でも赤いモスクワ、若い男は死んで
向かった先は天国だった
夜のニュースで、彼は困惑してると言う*1
じきに高速道路は全部繋がる
宝くじの当選者は月を買う*2
僕らを救うべく、ここに現れたスペースインベーダー

彼は車のことを考えた
それに乗ってどこに向かおうかと
誰と一緒に乗ろうかと
でもそこには、誰もいなかった

ロンドン・ヒースロー空港は混乱状態
誰もが青い世界へ飛び立とうとする
でもその列は10年待ち
コロンビアは全盛期
雪の降らない時期なのに*3
アメリカは撃たれた、彼女は去ったが、多くのことをしでかした

彼は飛行機のことを考えた
それに乗ってどこに向かおうかと
誰と一緒に乗ろうかと
でもそこには、誰もいなかった

彼は車のことを考えた
それに乗ってどこに向かおうかと
誰と一緒に乗ろうかと
でもそこには、誰もいなかった

脚注

*1 ソ連の国旗が赤色であったことから、「モスクワは赤い」はロシアで共産主義が続いていることを意味する。この「若い男性」が誰を指しているかは不明だが、「ザ・グレート・エスケープ」が1995年9月にリリースされたことを踏まえると、ウラディスラフ・リスチェフを指している可能性が高い。なぜか彼に関する日本語のソースがほとんどないので、参考までに調べた内容を後述する。ただし、この曲との関連は確定的ではない。

*2 1994年にイギリスの国営宝くじが登場し、国民に壮大な夢を抱かせる内容の広告が打たれた。「It Could Be You」もこの宝くじについて書かれている。

*3 南米のコロンビア共和国が世界最大のコカイン生産国であることから、この雪はコカインのことを言っている可能性が高い。ただ、スペルがアメリカのコロンビア州などを指す「Columbia」になっているので、アメリカでもコカインが蔓延していることを意味しているのだろう。


  • おまけ
via WikiCommons

ウラディスラフ・リスチェフ (Владислав Листьев / Vladislav Listyev)はロシアのジャーナリストで、チャンネル1の前身であるORTのニュースキャスターだった。スターリンの大粛清、死刑制度、救世主ハリストス大聖堂の再建など、それまでタブー視されてきた問題について臆することなくテレビで発言し、多大な影響力を持った。

1995年3月1日、夜のニュース番組「ラッシュ・アワー (Час пик)」の収録後、リスチェフは帰宅途中で何者かに銃殺された。殺害時に大金を持ち歩いていたが、それらはすべて手つかずであったことから政治的暗殺であるという見方が強い。のちにテレビ広告の利権争いがあったことも伝えられているが、犯人不明のまま迷宮入りしている。

彼の死後、しばらくの間ORTでは「ウラディスラフ・リスチェフが殺害されました」というテロップと彼の顔だけが映し出されていた。当時トップクラスの人気を誇っていたテレビ司会者の突然の死は国民に大きな衝撃を与え、彼の葬儀には数千人が参列して花を手向けた。当時のエリツィン大統領もスタジオを訪れ、哀悼の意を述べている。

未解決事件であるためその動機は明らかではないが、民主主義の声として発信を続けたリスチェフの暗殺は、表現の自由が制限されていることを世間に印象づけた。

歌詞