Wernher von Braun – Tom Lehrer / トム・レーラー 和訳

Wernher von BraunTom Lehrer / トム・レーラー の和訳。アポロ計画の中枢を担ったドイツ出身の科学者ヴェルナー・フォン・ブラウンへのトリビュート曲。かと思いきや、悪名高きV2ロケットを作ったことに対しての皮肉が詰め込まれている。

MV

Wernher von Braun – Tom Lehrer 和訳

みんな集まって、ヴェルナー・フォン・ブラウンの歌を聴かせてあげるよ
彼の忠誠心というものは
便宜でしかないからね
彼をナチと呼んでみよう、彼なら嫌な顔ひとつせず
「ナチ、シュマチ!」と言ってくれる、ヴェルナー・フォン・ブラウン

偽善者だなんて言わないであげて
ノンポリだと言おう
「ロケットが上がったなら、どこに落ちるかなんて考えるわけなかろう!
それは私の管轄外だ!」と言ってるよ、ヴェルナー・フォン・ブラウン

この有名なお方に向けて、キツいことを言う人もいる
一方で、僕らの態度で
感謝を示すべきだと言う人もいる
例えば、ロンドンタウンの未亡人や障がい者なんかは
ヴェルナー・フォン・ブラウンに多額の年金を払ってもらうんだから

もしかすると、君もヒーローになれるかもしれない
ゼロへの数え方を学べばね
「ドイツ語とエーゴでのカウントダウンは知っとる!
だから私はチューゴクゴを学んどる!」と言ってるよ、ヴェルナー・フォン・ブラウン

  • 原詩
Gather 'round while I sing you of Wernher von Braun
A man whose allegiance
Is ruled by expedience
Call him a Nazi, he won't even frown
"Nazi, Schmazi!" says Wernher von Braun.

Don't say that he's hypocritical
Say rather that he's apolitical
"Once the rockets are up, who cares where they come down?
That's not my department!" says Wernher von Braun.

Some have harsh words for this man of renown
But some think our attitude
Should be one of gratitude
Like the widows and cripples in old London town
Who owe their large pensions to Wernher von Braun.

You too may be a big hero
Once you've learned to count backwards to zero
"In German, oder Englisch, I know how to count down
Und I'm learning Chinese!" says Wernher von Braun.

注釈 / 解説

ウォルト・ディズニーとフォン・ブラウン
NASA, Public domain, via WikiCommons

第二次世界大戦真っ只中の1943年に、ヒトラーは報復兵器として弾道ミサイル「A4ロケット」の開発をフォン・ブラウンのグループに命じた。この「A4」というミサイルはのちに「V2」と呼ばれるようになる。生産命令から14ヶ月後の1944年9月に「V2」は発射され、ロンドンでは2,754人の市民が死亡し、6,523人が負傷した。これに加えて、アントワープでも6千人余りの死傷者が出た。V2の製造にあたって強制収容所の囚人が死ぬまで働かされたという「奴隷労働」の事実があったことも忘れてはならない。

第二次世界大戦後、フォン・ブラウンは他のドイツ人科学者とともにアメリカへ渡り、アメリカの市民権を得た。アメリカでロケット研究を続けるうちに宇宙計画へ関心を持ち、1960年にはマーシャル宇宙飛行センターの初代所長となった。そしてフォン・ブラウンの指揮によって開発されたサターンVロケットがアポロ11号を打ち上げ、人類初の月面着陸に成功したのである。

Nazi, shmazi !

話を曲の方に戻すと、「ナチ、シュマチ」という言葉は「shum畳語」と呼ばれる皮肉屋の言い回しで、ある名詞の頭文字を「shm」に入れ替えて繰り返す。例えば、セールの話をしている時に「セール、シュメール! (Sale, shmale!) 欲しいものなんてないね!」のような使い方をする。「ナチ、シュマチ」も「Nazi」の「n」を「shm」に置き換えて「shmazi」と言うことで、ナチスと罵られても相手にしていない様子を表している。

ちなみにこの用法は、イディッシュ語を母語とするユダヤ人が使い始めたものである。