White Elephant – Nick Cave & Warren Ellis / ニック・ケイヴ&ウォーレン・エリス和訳

White Elephant – Nick Cave & Warren Ellis の和訳。「白い象」は育てるために莫大な費用の掛かる、迷惑な贈り物のこと。その結果、象は人間の都合で殺されることになる。その無意味な死が、この曲ではBLMの象徴として使われている。

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和訳

ホワイトハンターは、ベランダに座っていた
エレファント・ガンと、涙とともに
お前がここに来たら、タダでお前を撃ってやるよ
彫像の首を膝で押さえつける抗議者
彫像は言う「息ができない!」
「これでお前も、あの気持ちが分かっただろ!」抗議者はそう言って
それを海へ蹴り飛ばした

俺はペニスのついた、ボッティチェリのヴィーナスだ
巨大な貝殻の扇子に乗る
俺はスプレーで作られた、波の花の女なんだ
お前に危害を加えにやってきたのさ
パンツには、象の涙でいっぱいの銃がある
両腕にはタツノオトシゴを抱えて
この涙のエレファント・ガンで、タダでお前を撃ってやるよ
こっちに近づこうとするなら
お前の顔に向けて撃ってやる
こっちに近づこうとするなら

俺は太陽に溶けゆく、氷の彫刻
エレファント・ガンを持つ、氷の彫刻
象サイズの涙で作られた、氷の彫刻
お前の頭上から、ガスと塩を降らせてやるよ
大統領はFBIを呼び出した
俺は何年も前から計画してたのさ
お前の顔に向けて撃ってやるよ
もしもここまで来ようとするなら
暇つぶしにお前を撃ってやるよ
俺は太陽の中、自分側に横たわる彫刻だ
象の思い出とともに
お前の目の前で蒸発する
そして憤怒という、巨大な灰色の雲となる
地球上に俺の塩を轟かせよう
それ以上俺を見てくるなら、タダでお前らを撃ってやるよ

その時は近い
もうすぐだ
あの空の王国へ旅立つ時
誰とは聞くな
なぜと聞くな
空に王国はある
俺たちは全員家に帰るんだ
しばらくの間
その時は近い
もうすぐだ
あの空の王国へ旅立つ時
俺たちは全員家に帰るんだ
しばらくの間
その時は近い
もうすぐだ
あの空の王国へ旅立つ時
俺たちは全員家に帰るんだ
もうすぐ

解説

ニックのブログによると、この曲は彫刻家で画家のトーマス・ハウシーゴ (Thomas Houseago) に捧げたものだそうだ。ロックダウンが始まった頃からトーマスは精神不安定になり、創作活動が完全にストップしていた。ニック自身もなかなか作品を完成させることができずにいたため「自分のために作れなくても、他人のために作ることはできる」と考えて、「トーマスのために曲を作るから、自分のために絵を描いてくれ」と提案した。それから間もなくして「White Elephant」が書き上げられた。トーマスもこの絵を完成させることでスランプから脱することができたようで、2022年9月にはブラッド・ピットを加えた3人で展覧会を開くまでに至っている。

というわけで短時間で完成させた歌詞なのだろうが、驚くほど示唆に富んでいる。まずはタイトルの「White Elephant」という言葉。シャムという国があった時代、シャムの国王は気に入らない臣下に白い象を贈っていたそうだ。王の贈り物を拒否することは失礼にあたるので受け取らざるを得ないが、白い象は神聖な動物なので働かせることもできない。さらに象を養うために巨額の出費が必要で、飼い主は破産するか、象を餓死させるか、または殺すしかない。いずれにせよ、象が死ぬ理由は人間の身勝手だ。

これに繋がる話が、ジョージ・オーウェルの『象を撃つ (Shooting an Elephant)』だ。これはイギリス植民地であったビルマ (現在のミャンマー)で警官として働いていた時の半自伝的な物語。反英感情が高まっていた時代、イギリス警官には現地民から毎日のように野次が飛ばされた。主人公は現地民に同情を寄せつつも、帝国主義のシンボルとして抑圧的な態度を装い、次第にそれが演技ではなくなっていく。ある日、普段温厚な象が暴れていると通報を受ける。駆けつけた頃には象の様子は落ち着いていて、その顔は穏やかに見えた。しかし周りには大勢の人々が集まり、イギリス警官なら象を仕留めてくれるだろうと期待を込めて彼を見つめていたのである。帝国主義を背負う彼は、バカにされることを恐れ、自分の名誉のために、象の頭を撃った。しかし象は死ななかった。何度撃っても、象は死なずに目の前でただ痛々しく苦しむだけだった。その光景を見ていられず彼はその場を離れ、その後に、象がしばらく悶え苦しみながら死んでいったことを聞かされる。年上の同僚は彼の行動を褒めた。年下の同僚は彼を責めながら、象より価値のある現地民なんていないのにと言った。

歌詞に登場するホワイトハンターとは大きな獲物を狙うハンターの通称で、エレファント・ガンは象を仕留めることのできる威力を持つ銃のこと。ここで「ホワイト」ハンターは「なぜか」無闇に人を殺したがる。それに続いて現れるのが、首を押さえつけられて「息ができない」と言う彫像だ。これは、白人警官に馬乗りにされて窒息死したジョージ・フロイドと全く同じ状況であり、ジョージ・フロイドが受けた苦痛と同じ苦痛が彫像に与えられているのだ。この彫像とはホワイトハンターのことであり、氷の彫刻であり、ペニスのついたボッティチェリのヴィーナスである。

「ヴィーナスの誕生」で描かれているヴィーナスはアフロディテ、その父はウラノスだ。ウラノスにはもともと12人の子がいたわけだが、半数の子は美しく、半数の子は醜かった。ウラノスは醜い子どもたちを嫌い、妻のガイアの子宮に彼らを閉じ込めてしまう。これに怒ったガイアは、残された子どものうち、協力的であったクロノスに彼の殺害を命じる。しかしクロノスは父を殺さずにその性器を切り落としたのだ。ウラノスの性器は海に漂流し、その周囲に立った泡からアフロディテが誕生したのである。つまり、ペニスはウラノスの罪の象徴でもある。

「氷の彫刻」になると、徐々にその姿は崩れていく。氷の彫刻がガスと塩を降らせる姿は、催涙スプレーを使ってBLMの暴動を鎮める警官の姿と重なる。ホワイトハンターは「涙を持っている (with his tears)」と書かれているが、これはホワイトハンターが涙を流しているのではなく、催涙スプレーで流される涙だったり、いたずらに殺された象の涙を背負っているということだろう。

最後に繰り返される言葉が「空の王国へ旅立つ」。「空の王国 (kingdom in the sky)」とはアルバムを通して使われている表現で、すなわち「天国」のことだ。天国に行くのは、ホワイトハンターが持つ虚栄心、そして悪しき思想である。

歌詞