Auntie Diaries – Kendrick Lamar / ケンドリック・ラマー 和訳

Auntie Diaries – Kendrick Lamar / ケンドリック・ラマー の和訳。トランスジェンダーの叔母といとこを持った男の視点から、2つの物語が語られる。さらに、ケンドリックの白人のファンがステージ上で「Nボム」を投下した事件に言及している。

MV

Auntie Diaries – Kendrick Lamar 和訳

オリジナル🔗Genius

[Intro]

この心の振る舞いは 理性で制御できない
この心の振る舞いは 理性で—
この心の振る舞いは 理性で制御できない
こうやって俺たちは 人間の概念を定義する

[Verse 1]

今じゃ叔母は男になった
俺はそれを理解できる年齢なんだと思う
彼女は帽子を後ろ被りにして ポール・マッソンを飲む
モトローラの無線機、オフホワイトのGUESSジャケット
ブルーのエアマックス、ゴールドチェーン、カール・キット
93年モデルのニッサン洗車仕事を一番早く
社交的で、寛容で、考えを口にするタイプ
アンダーグラウンドのバーベイタムをプレイして そして地元に残った
今じゃ叔母は男になった
彼とその彼女が手を繋ぐ姿を 俺は見てた
通りの先端 街の明かりの下で
それから彼は考えた「成功したら最高の女が欲しい」
カリフォルニア・キングみたいに 街角で抱き合う
冷たい手は彼女のスカートに入る 車は音を立てる
ほらな、叔母は男なんだ 少し虚勢を張って
宝くじみたいなものを削ってる
明日も彼女に会えるように
だから俺はフロントシートで一緒にいて
俺の下で スピーカーは音楽を響かせる
今じゃ叔母は男になった
母親に訊いた なぜ叔父は彼のことが気に入らないのか
パーティーではなぜ あんなにケンカしたがるのか
母親は言った「よくわからないね
男っていうのは 女がたくさんいる男に対して嫉妬するのよ
もっとお金があるとか もっと注目されてるとか それで嫉妬深くなるし
貧乏人以外の言葉だったら、そこまで怒らなかったかもね」

[Verse 2]

今じゃ叔母は男になった
俺はそれを理解できる年齢なんだと思う
彼女は帽子を後ろ被りにして ポール・マッソンを飲む
「ファゴット」と言うこと自体が面白かった頃
ファゴット、ファゴット、ファゴット 俺たちは無知だった
フィルターのない小学生だったから
でも今じゃ叔母は男になった そこに俺はプライドを持ってる
ゲイじゃないよ 彼女はプッシーを食べるから、ちょっと違うんだ
2年生のとき 俺は友達にそう言ってた
学校の迎えで彼女が来たとき アイツらは彼女の顔をまじまじと見つめた
俺はこれに慣れて育った でもアイツらには理解されなかった
俺たちは車を停めて 平然とクイックを聴いてた
今じゃ叔母は男になった すごい関係だよな
俺は成長が早くて 子守りはすぐにいらなくなった
彼は金をくれて ギャング仲間をくれた
ダッシュボードに漂うチェリーの芳香剤 それに文句を言ったことはない
彼女は家で俺の髪を切ってくれた 俺のフェードカットを気に入ってた
俺の書いたラップを初めて見た人
そこで俺の人生は変わったんだ
デモだらけの家 窓は煙で曇ってる
マイクにカメラ 全部女と男だけだったが
今じゃ叔母は男になった 俺たちはそれでいいと思ってる
歴史に搾取され 俺たちは無知になった
俺の大好きないとこは 同じことをしたいと言って
叔母に続いて 同じ振舞いを始めた

[Verse 3]

今じゃデメトリアスは メアリー・アンだ
彼の計画を生きることに もっと自信がついたみたいだ
でも家族は懐疑的だ
こう言い聞かせながら「あの子は思慮深く生きてないだけ、大丈夫」
そんな様子は全くなかったと言ってたけど 俺には見えてた
ヴィーナスの投影のように遊んでたバービー人形
あんなに高い壁を作ることで 登って来れないようにしてた
子どもたちが冗談で言っても 彼はそこまで笑わなかった
「ファゴット、ファゴット、ファゴット」 俺たちは無知だった
フィルターのない中学生だったから
でも俺のいとこに対しては 俺はよく注意して見てた
俺には彼がどういう奴かわかってた それでも彼を愛してた

[Verse 4]

今じゃデメトリアスは メアリー・アンだ
彼は本当にメアリー・アンなんだよ それからさらに事は進んだ
彼は性別を変えた ブルース・ジェンナーが公表する前に
真実を生きたんだ それが外科手術を意味したとしても
しばらく俺たちは話してなかったけど さらに遠くなった気がした
一緒にいると落ち着かないし いつも攻撃的になる
でも俺は覚えてる 俺たちのユーモアってセンス悪いよな
あれが自然だったのに 時間がすべてを変えてしまう

[Verse 5]

今じゃデメトリアスは メアリー・アンだ
教会よ、覚えてるか? 復活祭を?
俺は信徒席に着いてたが お前の方が信仰は強かった
もっと精神論を信じてた この男たちがストレートとして生活してるのに
俺にはそれが皮肉に映った 神父は同じように彼を見てなかったから
俺のいとこはいくつか試練を受けねばならないと 彼は言った
俺たちが生きる世界は 忌まわしい行為の結果だと言った
そして責めるべきはデメトリアスだと
神父の感情に お前が対立してたことは知ってる
神は真っ当な人間だと言ってくれるのか 心配してただろう
それでもお前は聖別するためだけに 勇気を出した
名指しされて説明を求められるまでは 神父はこう言った

[Verse 6]

「今ではもう、デメトリアスはメアリー・アンとなりました
そして彼の叔母は男性となったのです」 心が痛んだ
お前の心が一番痛んだ なぜならお前の信念は彼の発する言葉に近いはずだった
俺は思わず立ち上がって
こう言った「神父様、私たちは隣人を愛するべきですか?
この法律は、国のため、心のため、どちらに重きを置いていますか?
その研究については理解しています、彼女は生まれたときからそう教えられています
しかしそれは私のいとこが持っている感情を、正当化してくれません」
場内からは声が上がった「堕天使」
そこでお前は俺を見て、笑いかけて言った「ありがとう」
俺はその日、宗教じゃなくて人道を選んだんだ
家族の距離は近くなったから すべて許されるだろう
俺がFボムを投下したとき 俺は無知だった
お前もたいして変わらないと勘違いしてたんだ
言葉はただの音に過ぎないんだと教わってたから
意図しなくても そう発せられたものは
その瞬間に 俺が始めたそれを試すことになる
あの街でやったライブのことが蘇る
ラップをさせるために ファンをステージに上げて
俺と一緒にその言葉を発する彼女を拒否した
お前は言った 「ケンドリック、矛盾しちゃいけない
愛を本当に理解したいなら 立場を変えてみろ
ファゴット、ファゴット、ファゴット 俺たちと一緒に言えばいい
お前が白人の女の子に“ニガ”と言わせるなら」

注釈 / 解説

トランスジェンダーの社会的立場

2021年、トランスジェンダーへのヘイトクライムはアメリカで過去最高を記録し、57人が殺害された。つい最近も「幼稚園児をゲイと決めつけない」法律がフロリダ州で可決されるなど、LGBTQ+コミュニティへの理解にはまだまだ壁がある。また「ゲイやトランスジェンダーは洗礼を受けることができない」と発言した教区もあるくらいなので、教会もトランスジェンダーの受け入れはあまり進んでいないようだ。

デメトリアスに対する反応を見ても、メアリー・アンになったとは言え、ずっと代名詞は「彼」のままであった。しかし神父に楯突く場面で初めて「彼女」と呼び、メアリー・アンを受け入れたことが言葉に表れている。ちなみに「隣人を愛するべきか」という表現は、マタイによる福音書 22:37-39に「自分を愛するようにあなたの隣り人を愛せよ」という教えによる。

曲中で触れられている「ブルース・ジェンナー」は、元陸上競技選手で、モントリオールオリンピックの金メダリストである。クリス・ジェンナーとの間にケンダルとカイリーを授かるも2015年に離婚。その後トランスジェンダーであることを明かし、名前を新たに「ケイトリン・ジェンナー」として、女性となった。

黒人でなければ、歌詞中の「Nボム」を口にしてはいけないのか

この曲で繰り返される「ファゴット (Fボム)」という言葉は、同性愛者を強く罵る侮蔑語であり、禁句とされている。ただし「クソ野郎」くらいの感覚で、セクシャリティーに関係なく軽い罵り言葉で使われていた時代もある。

同様に「ニガ (Nボム)」も禁句である。黒人ラッパーが連発するので感覚が麻痺しているかもしれないが、これは軽々しく口にするべき言葉ではない。では、黒人でないなら「Nボム」をそのまま歌ってはいけないのだろうか?

その議論を巻き起こした事件が、2018年5月に行われたアラバマ・ハングアウト・フェスティバル。ケンドリックはファンの白人女性をステージに上げた。そこで彼女が「m.A.A.d. city」のラップを披露した際に、「Nボム」をそのまま口にしてしまったのである。ケンドリックは途中で彼女を止めて観客に戻した。

この曲の最後のバースはこの事件のことが語られている。そして最後のラインでは、ケンドリックがヘテロセクシャルとして「Fボム」を使うことを許せと言うなら、白人女性が「Nボム」を使うことを「モラル」として許すべきだ、と言っている。

つまり、「Fボム」も「Nボム」も、言われた感覚は当事者にしかわからない。だから安易に使うべきではないのである。

そしてこのストーリーは、次のトラック「Mr. Morale」に繋がっている。